在庫と売上原価
同人誌の印刷代は、刷った年にすべてがその年の経費になるわけではありません。売れた分が売上原価になり、売れ残った分は年末の在庫として翌年に繰り越します。
印刷代がその年の経費にならない理由
所得の計算で差し引けるのは、その年の売上を得るためにかかった費用です。100部刷って35部しか売れなかった年に、100部分の印刷代を全部差し引くと、まだ売っていない65部の費用まで先に差し引いたことになります。そこで、売れた分の制作費だけを売上原価としてその年に差し引き、売れ残った分は在庫として翌年以降に繰り越します。
同人活動の所得が雑所得にあたる場合も、必要経費にできるのはその年の売上に対応する費用なので、同じように考えるのが一般的です。
売上原価の計算式
売上原価 = 年初の在庫 + その年の制作費 − 年末の在庫
- 年初の在庫:前の年の年末の在庫の金額。初めて本を出した年は0円です
- その年の制作費:印刷代、グッズの製造費など、その年に作った分の費用
- 年末の在庫:12月31日に残っている部数 × 1冊あたりの単価
年末の在庫の金額は、そのまま次の年の「年初の在庫」になります。1年目に在庫を記録しておかないと、2年目以降の計算ができなくなるので、部数と単価は毎年残しておきます。
2年分の計算例
ある本を2025年に100部(印刷所の余部5部を含めて105冊)刷り、印刷代が84,000円だった場合です。1冊あたりの単価は800円です。
| 2025年 | 2026年 | |
|---|---|---|
| 年初の在庫 | 0冊・0円 | 70冊・56,000円 |
| その年に刷った分 | 105冊・84,000円 | 0冊・0円 |
| 頒布・献本・処分した分 | 35冊 | 11冊 |
| 年末の在庫 | 70冊・56,000円 | 59冊・47,200円 |
| 売上原価 | 28,000円 | 8,800円 |
2025年の売上原価は「0円 + 84,000円 − 56,000円 = 28,000円」、2026年は「56,000円 + 0円 − 47,200円 = 8,800円」です。印刷代84,000円を2025年にまとめて差し引くのではなく、売れた年ごとに分けて差し引く形になります。

1冊あたりの単価
単価は、その本の制作費を刷った冊数で割って出します。印刷所が注文より多めに刷ってくれる余部(予備)を冊数に含めるかどうかで単価が変わるため、毎年同じ扱いにそろえます。
- 制作費に含めるもの:印刷代、製本代、印刷所への送料、表紙の特殊加工の代金など、その本を作るために直接かかった費用
- 制作費に含めないもの:イベント参加費、交通費、画材など。これらはその年の経費として記録します
最終仕入原価法と総平均法
同じ本を何度か刷り直すと、刷った時期によって単価が変わります。年末の在庫にどの単価を使うかが「評価方法」です。所得税では、評価方法を選んで税務署に届け出ていない場合、最終仕入原価法で計算すると定められています。
| 評価方法 | 年末の在庫に使う単価 |
|---|---|
| 最終仕入原価法 | その年の最後に刷ったときの単価 |
| 総平均法 | (年初の在庫の金額 + その年の制作費)÷(年初の冊数 + その年に刷った冊数) |
たとえば、上の例の本を2026年に50冊再版し、印刷代が35,000円(1冊700円)だったとします。年初の在庫が70冊・56,000円、2026年に41冊頒布して年末に79冊残った場合、年末の在庫は次のようになります。
- 最終仕入原価法:79冊 × 700円 = 55,300円
- 総平均法:単価は(56,000円 + 35,000円)÷(70冊 + 50冊)= 約758円で、79冊 × 758円 = 59,882円
年末の在庫の金額が変わると、その年の売上原価も変わります。最終仕入原価法以外の方法を使うには、税務署に「棚卸資産の評価方法の届出書」を期限までに出す必要があります。どの方法にするか迷う場合は、税務署か税理士に確認してください。頒布帳では、設定で評価方法を切り替えて金額を比べられます。
年末の在庫の数え方
年末の在庫は、12月31日時点で実際に残っている部数を数えて決めます。帳簿上の計算(刷った数 − 頒布した数)と実際の部数が合わないときは、実際の部数が基準です。
- 自宅に保管している本
- 書店やイベントの委託先に預けていて、まだ売れていない本
- BOOTHの倉庫に預けている本
冬のイベント(12月下旬のコミックマーケットなど)の直後は、搬入用の箱に残った部数と、委託先に送った部数を忘れずに数えます。委託先の在庫は、年末に近い時点の在庫数や精算書で確認します。
献本・処分した本
見本誌として提出した本、他のサークルとの交換や献本で配った本、汚れや破損で処分した本は、年末の在庫に含まれません。その結果、これらの本の制作費は売上原価に含まれる形になります。いつ、何冊を、どういう理由で手放したかを記録しておくと、年末の部数が合わないときに確認できます。
在庫処分のために、古本の買取に出したり、イベントで値下げして頒布したりした場合は、受け取った代金が売上になります。廃棄した場合は、廃棄した日と冊数を記録し、可能であれば廃棄の写真なども残しておきます。
在庫管理の方法
同人誌の在庫管理で記録しておくのは、本ごとに次の数字です。表計算ソフトでも管理できますが、本が増えると年をまたいだ繰り越しの計算が手間になります。
- 刷った日・冊数・制作費(再版を含む)
- イベント・通販・書店委託ごとの頒布数
- 献本・見本誌・処分した冊数
- 12月31日に数えた実際の在庫数(手元・委託先・倉庫)
頒布帳は、これらを入力すると年末の在庫と売上原価を計算し、翌年の年初の在庫に自動で繰り越す在庫管理アプリとして使えます。BOOTHの売上管理CSVを読み込むと、通販で頒布した冊数も本ごとに数えます。
在庫を抱えすぎたとき
同人誌や同人グッズの在庫を抱えすぎると、保管の場所だけでなく、税金の計算にも影響します。在庫が多いほど、その年の売上原価は小さくなり、手元のお金が減っていても所得は大きく計算されます。
- 次に刷るときは、過去の頒布数と部数・原価計算ツールで部数を見直す
- 委託や通販に回して、在庫を売り切る場所を増やす
- 処分する場合は、上の「献本・処分した本」のとおり記録を残す
よくある質問
書店に委託している本も在庫に入りますか。
委託先で売れるまでは自分の在庫です。年末時点で委託先に残っている部数も、手元の部数と合わせて数えます。
グッズ(アクリルスタンドなど)も同じ考え方ですか。
同じです。制作費のうち売れた分が売上原価になり、売れ残った分は在庫として繰り越します。
在庫を処分したら、その分は経費になりますか。
処分した本は年末の在庫から外れるため、計算の結果としてその分の制作費が売上原価に含まれます。処分した日と部数は記録しておきます。
出典
このページは、法令や各サービスの公開情報をもとに一般的な決まりを説明したものです。個別の状況での判断(所得の区分、経費にできるかどうか、税額など)はお答えしていません。判断に迷う点は、税務署または税理士にご確認ください。